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《 第四話 一眼レフ 》


私が初めて一眼レフカメラに触れたのは中学3年の時でした。          
山岳同好会に入っていた叔母に連れられて、足慣らしに二上山に登った時です。  
同じ同好会に「山と渓谷」などに山岳エッセイを掲載されていたM先生という方がお
られ、そのM先生が一眼レフカメラを持って同行されたのです。         
私はM先生にはよく可愛がっていただいており、その時に、M先生の一眼レフカメラ
を持たせていただきました。                         
忘れもしません、ニコマートFTNでした。                   
ずしりとした重厚感、硬質な質感、メカニカルなイメージと吸い込まれるようなレン
ズのの透明感。                               
私はしばし見とれてしまいました。                      
ファインダーを覗き、巻き上げレバーを少し引くと、ファインダーの中で露出計の針
が動き、絞りリングをまわすとその針が連動する。 自分がこのメカを動かしている
という感動があり、そしてピントリングをまわすと、それまでぼけていた映像が次第
にシャープに形をなしてくる。 レンジファインダーカメラでは感じる事の出来なか
ったフォーカシングというものを目の当たりに体験したのです。         
絞りリングにフックが付いていて、それがペンタプリズムの下から出ているレバーに
絡み、リングを動かすとレバーが連動する。 なにかとても本物のメカニカルな感じ
がして、これはおもちゃではない、という興奮があったのですね。        
シャッターを切ると「バシャッ」という音と一瞬のミラーアップ。 まさに実弾を入
れた銃を撃った時のような快感がありました。                 
私はしばらくそのニコマートを離す事が出来ませんでした。           
M先生はそんな私の気持ちを判って下さったのか、その時ニコマートに入っているフ
ィルムを使ってもいいと言って下さり、私はとにかく嬉しくて、何か写そうと熱くな
ったのです。 しかし、そうして構えてみると、なかなか撮れないのです。    
それまでよく使っていたオリンパスペンのように気軽にスナップなど撮ってはいけな
いような威圧感があり、おいそれとシャッターが切れないのですね。       
私は慎重に被写体を捜し、山道にひっそりと立っている野仏や山寺の石段、二上山の
岩肌などを選んで撮りました。 私にとっては初めての風景撮影であったのかもしれ
ません。 とうとうフィルム1本撮りきるのに丸1日かかりましたが、M先生はその
間、ずっと私の手にニコマートを持たせて下さっていたのです。         
この時、私の写した写真はどこにいったのか判りません。 アルバムにも貼っていな
いので、行方不明のままなのですが、当時はアルバムに写真を貼るといえば家族の記
念写真が主体であったのでこういう事になってしまったのでしょう。       

がぜん私はニコマートがほしくなりました。 というより、一眼レフカメラが欲しく
なったのです。                               
けれど、当時の一眼レフカメラは中学生の手の届くものではありませんでした。  
当然親が買ってくれる訳はなく、といって、一度欲しいと思ったものを簡単にあきら
める私ではありませんから、そこでバイトをして稼ごうと思ったのです。     
しかし、時期が悪かった。                          
中学3年であり、高校受験を控えている時であり、バイトをしている場合ではなかっ
たのですね。                                
そういう時期でもあり、私が自分の一眼レフカメラを手に入れたのは高校1年の夏休
みが終わった時でありました。                        




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憂想堂
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