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《 第五話 マイファーストカメラ 》


私が初めて自分のカメラを手に入れたのは高校に入ってからでした。         
当時から私は自立心が旺盛でしたので、カメラが欲しいと思っても親にねだろうという 
発想はなく、いかにして金を稼ごうかと考える少年だったのです。          

ですから高校に入ってからは日曜日など休みの日にはほとんどバイトをしていましたね。
幸いにしてその頃私の父は叔父と共同で工務店を経営しておりまして、その会社で学生 
アルバイトを使っていたものですから、その中に紛れ込んでバイトをしていたのです。 
友人達は休日ともなれば女の子と遊びに行ったりしているというのに、私は女気の無い 
建築現場で無骨なおっさん達を相手に働いていたのです。              

当初、私はニコマートを買おうと思っていました。                 
しかし、カメラに関心を持ち出してからというものは、カメラ屋の前を通ればウインド 
ウにへばりつき、パンフレットを集めまわり、カメラ雑誌を買いあさりと、いろいろす 
る訳ですね。 そうなると、一眼レフはニコマートだけではないというのに気が付き始 
める訳です。                                  

そんな折り、大阪のとあるデパートで「日本カメラショー」なるものが開催されました。
当然私は走ります。                               
そのカメラショーは当時の私にとって夢のような催しでした。            
なにせ、今までウインドウ越しにしか見る事が出来なかった、あるいはパンフレットや 
写真でしか見る事の出来なかったカメラを実際に触れる訳ですから。 それも、国内国 
外を問わず、ありとあらゆるカメラが揃っているのですから、これを夢のようなと言わ 
ず何と言いましょうや。                             
今でこそ、カメラのナ○ワやエ○サ○トに行けばデモンストレーション機を手に取る事 
が出来ますが、当時高級品であったカメラをおいそれと触らせてくれる所は無かったの 
ですから。                                   

カメラショーではニコン、キャノン、ミノルタ、ペンタックス、コニカ、オリンパス、リ
コー、トプコン、ゼンザ、ライカ、チノン、ローライ、等々、あらゆるメーカーのブース
があり、それぞれに自社製品を展示しいて、客はそれを触れたのです。        
今にして思えば面白いカメラもたくさんありました。                

特によく憶えているのは、リコーの一眼レフで、これは通常のアイレベルファインダー 
と、もうひとつ、ペンタハウスの真上にウエストレベルファインダーが付いていたので 
す。 つまり、通常の立ちポーズでも撮れるし、それとローアングルで、カメラを地面 
につけるくらいに低い位置でも、上からのぞき込んで撮れるというものです。 これな 
どは今あっても画期的な機能であると思うのですが、リコーがその1台を作ったきり、 
他に作られる事はありませんでした。 面白かったのはアイレベルで見た時とウエスト 
レベルで見た時とではファインダー内を透過してくる光の色が違って見えた事。 これ 
はペンタプリズムの屈折率が変わるためにおこる現象で、見ているとフィルムに写る色 
まで変わるのではないかと思えるほどでした。                   

もうひとつ画期的だと思ったのは、たぶんオリンパス(なにせ20年も前の事なので記憶 
があやふやな部分があります。 もし間違っていたらご指摘下さい)OMシリーズの前 
身機ではなかったかと思うのですが、平均測光全盛の時代にスポット測光を採用してい 
た一眼レフです。 これは白バックの中のリンゴ、黒バックの中の野球のボールなどを 
撮る時、平均測光では必要となってくる露出補正をする必要が無い、というのが唄い文 
句であったカメラでした。 しかも、このカメラは当時のペンタックスのスクリューマ 
ウントと同じ形状であったため、ペンタックスの交換レンズ群を使えるという事でも大 
きなメリットを持ったカメラでした。 私の友人のペンタックスオーナーがサブ機とし 
て重宝して使っていたという事もあり、かなり気をひかれたカメラではありました。  

他にもいろいろと個性的なカメラがいっぱいありました。              
ハッセルをコピーしたようなゼンザブロニカ(社長の名前が善三郎というところからつ 
いた名前だという話しでしたがほんまやろか)はブロニー版をフォーカルプレーンシャ 
ッターで動かしていたものですから、巨大なミラーが動く訳で、そのミラーアップのシ 
ョックの大きさで三脚を立てていてもブレると言われていました。          
トプコンの一眼レフは無骨な平家ガニのようなデザインであったし、ニコンFはピラミ 
ッドみたいに見えたものでした。                         

その中で私の気をひいたのはペンタックスSPでした。               
そのデザインにひかれたのですね。                        
当時は無骨なデザインのカメラが多かったのです。 機能から追いかけるとどうしても 
そうなってしまっていたのでしょう。 ニコマートはいいデザインだと思いますが、ペ 
ンタックスSPと比べるとやはりゴツゴツ感のあるものでしたし、ニコンFは直線的す 
ぎて暖かみを感じなかった。 ましてやニコンFのフォトミックファインダーを装備し 
た姿は頭でっかちにしか見えなかった。                      
トプコンは言わずともしれでありましたし、キャノンやミノルタもまだデザイン的に練 
られているとは思えませんでした。                        
それらに比べ、ペンタックスSPはシャープでありながらシンプルな曲線がうまく使わ 
れていて暖かみや親しみを感じさせるデザインであったし、手にとった時のフィット感 
や質感も非常に上質なものでした。                        
デザイン的にバランスがてとも良いカメラであったのですね。            
私は今でも古今東西、古いものから最新機までの中でもペンタックスSPは最上位のデ 
ザインを持ったカメラであると思っています。                   
性能的にもTTL機能は各カメラ雑誌の論評でも上位にランキングされていたし、シャ 
ッターの信頼性や耐久性もいい評判でした。                    

で、私は購入機をニコマートからペンタックスSPに変更したのでした。       
当時の世論ではニコンFが最高であるという事でした私もニコンFは欲しいと思いまし 
た。 が、ニコンFは当時高かったですね。 とても私の手の届くカメラではありませ 
んでした。                                   
それに対しペンタックスSPはかなり廉価でありました。              
ニコマートと性能的にはほぼ同じであったにもかかわらずニコマートよりも安かった。 
それにペンタックスなら交換レンズも豊富であり、アクセサリー類も充実していました。
ペンタックスSPにしようと心に決め、またまたバイトに精を出し、その年の夏休みが 
終わった時点で私はペンタックスSPに55ミリF1.8レンズを付け、購入したのでした。 




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憂想堂
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