自分で作品づくりを意識しだすと、今度は引き伸ばし機が欲しくなります。
それでまた私はバイト三昧でした。
さて、当然、引き伸ばし機を買ったというだけではプリントは出来ません。
さて、それからというものは、学校から帰ると、その日写したフィルムを現像し、その
自分でプリントするという事は、構図やトリミングの操作から焼き色やコントラストま
印画紙もいろんな種類を試したり、現像液もいろいろ試したり、楽しい暗室作業でした。
壁面投影の時のピント合わせは実に微妙です。 まず壁面に印画紙と同じ厚さのケント
これらの作業は楽しかったし、作品を作っているという実感があって、充実していまし
フィルム現像に関してはある時期、ちょっと偏った手法にはまった事がありました。
今でもそうなのですが、私はローキーな絵よりハイキーなもののほうが好きでして、デ
あと、同じハイキーでも反対に微粒子で仕上げる絵もよく使いました。
暗室作業ではいろんな事をやりました。
DPE屋にプリント依頼する時、細かく注文をつければある程度は指示どおりにやって
もらえますが、いろいろと試行錯誤を重ねながら作っていきたい時には対応してもらえ
ません。 そうなるとどうしても自分の手でプリントしたくなる訳ですね。
デジタル画像であるならばスキャニング後、自分で画像を触れますが、写真の場合は自
分で現像過程を持たないとそれが出来ない訳です。
家業でバイトが出来るという環境のおかげで、早い時期に引き伸ばし機を購入出来まし
た。
LUKEY90Mという引き伸ばし機です。
当時はこのLUKEYとFUJIが引き伸ばし機の主流だったのですが、FUJIは支
柱が垂直であり、それがためにテーブル上であまり大きく引き伸ばせない。 それに対
し、LUKEYは支柱が傾斜しており、支柱が投影光の邪魔をしないので、テーブル上
で大きな面積を稼げるという利点があったため、LUKEYにしたのです。
作品とするためには全紙サイズを手軽にプリントしたいという思いがありましたからね。
もっとも、いかに傾斜支柱のLUKEYといえど、そのままではテーブル上で全紙サイ
ズは伸ばせません。 が、LUKEYにはレンズアタッチメントが付属で付いていて、
それのペンタックスマウントというのがありまして、それにペンタックスのカメラ用の
35ミリより短いレンズを付ければテーブル上で全紙サイズが伸ばせたのです。
暗室が必要になってきます。 もっとも、夜に部屋の照明を消してしまえば暗室にはな
りますが、私としては昼の明るい時にも現像引き伸ばしをしたいと思っていましたから
暗室が必要だったのです。
で、どうしたかと言いますと、当時の私の6畳の部屋をパネルで半分に仕切り、扉を付
け、エンビ管で吸水と排水を引き、シンクを付け、セーフティライトも壁面に設置し、
これ以上ないというくらいのまともな暗室を作ったのです。 もちろん全て私一人で。
私は家業(建築工務店)の手伝いをしていましたので、パネルで壁面を作ったり、水道
の配管をしたりというのはおてのものだったのです。
機密性も完璧で、真昼であっても完璧な闇の空間を保ちました。
ネガからプリントをする、という日々です。
完全な暗闇の中で手作業でパトローネからフィルムを取り出し、フィルム現像機に巻き
込み、フィルム現像液を入れて攪拌する。 所要時間が来ると現像液を捨て、停止液を
入れて攪拌、停止液を捨てて定着液を入れる。 この際、各液温は20度Cに設定してお
かなければいけない。 定着時間が過ぎれば定着液を出し、後は水洗。 水洗後は水む
らや乾きむらが出来ないようにドライウェルを付けて乾かします。
私はフィルム乾燥機を持っていなかったのでドライヤーで乾かしていました。
さて、これでネガが出来ました。
次は印画紙に引き伸ばし、焼き付けです。
定尺のバットを3つ揃え、それぞれに印画紙用の現像液、停止液、定着液を入れます。
この際も各液は20度Cに設定です。
暗室内の照明を消し、セーフティライトを点けます。 この薄赤い光のみが印画紙に感
光しない波長の可視光なのです。
この薄赤さがなんとも暗室でありまして、いつもうきうきしてくるのです。
引き伸ばし機の前に座り、ネガをセットし、スイッチを入れます。
白いイーゼルにネガ映像が投影されます。
この段階でトリミングやフレーミングをおこないます。
そして、ピント合わせ。
一旦ライトを消し、イーゼル上に印画紙を置きます。
そして、露光。
露光時間はテスト露光をしたり、テストペーパーを印画紙の上に置いて露光したりして
決定です。 当時から露光メーターという測光機もありましたが、高価であったため、
このように地道にテストをして露光を決めていました。
露光出来れば、その印画紙を現像液に入れます。
しばらくすると……画像が浮かび上がってきます。
引き伸ばしをしていて一番わくわくする瞬間。
画像の浮かび上がりが止まったところで停止液に入れ、現像を止めます。
そして定着液に入れ、画像を定着させます。
定着には15分ほどかかりますが、定着完了後は光に触れてもかぶらなくなります。
そして水洗。
しっかり水洗し、各液が完全に洗い流されれば完了です。
後は印画紙乾燥機にかけて作品の仕上がりです。
で、さまざまな事が出来る訳ですから、それこそありとあらゆる事をやりました。
コピー用のフィルムであるリスフィルムを使ってソラリゼーションやレリーフ加工、ハ
イコントラスト処理や特殊合成、等々。
全紙サイズをプリントし、それをパネル張りし(このパネルも自分自身の手作りでした)
個展も開きました。 ロール印画紙を購入し、LUKEYのヘッド部を水平にして壁面
投影し、原寸大の人物ポートレートをプリントしたLもしました(この際のバットはタ
ンスの引き出しにビニールを覆い、そこに現像液を入れてやりました)。
紙を張り、そこに映像を投影します。 これはピントが微妙であるため、壁面パネルの
位置でピントが合っていても、その上に印画紙を貼ると、その厚み分だけピントがずれ
てしまうから、あらかじめケント紙でピントを合わせ、本番ではそのケント紙を取って
から印画紙を貼って、ピントずれを無くすのです。
壁面に投影された像を見て、だいたい合わせてからケント紙の位置でピントルーペで確
認を取っていくのですが、ひとりでやっていてはなかなか合わないのですね。 ふたり
いれば、ひとりがピントリングを回し、ひとりがピントルーペを見る、という事が出来
るのですが。
たね。
それは“増感現像”です。 よくやったのはASA(今ではISOと言いますが、当時はASA
という言い方が主流でした)400のTri-XというフィルムをASA800で撮影し、現像時
点で増感現像して標準濃度に持っていくというものです。
倍増感ですから、通常15分程度の現像時間のところ、倍の30分の現像時間をかけるとい
うものです。 現像液も当時はミクロファインやコレクトールがポピュラーでしたが、
それらは増感には向いていなくて、私はD76を自分で調合してそれを使っていました。
こうした上がったフィルムはハイコントラストで強度の素粒子ネガとなるのです。
これをプリントすると、ハイコントラストではあるけど、中間調が飛んでしまっている
訳ではなく、荒い粒子のローキーが出て、とても迫力を感じる絵になったのです。
私はドキュメンタリー作品にはこの手法を好んで使っていました。
ジタル画像でもかなりコントラストはきつめにかけてしまいます。
写真でもそうでして、増感もハイキーへの傾倒からのものだったのかもしれません。
これはミニコピーフィルムという印刷用のASA32の低感度フィルム使っての撮影で、現
像は標準で、それだけでハイキーで恐ろしいほどの微粒子に仕上がるのです。
ただ、感度が低いのと有効使用バンドが狭いのとで、安定した光量のある所以外では使
いにくく、自然光撮影では失敗する確立が高かったです。
大伸ばしするにはいいフィルムでしたね。
これらはDPEに出していたのでは絶対に不可能な作業であり、こんなに楽しい事はあ
りません。
まさに今のデジタル画像を作る作業はこの暗室作業と通じるものがあり、それ故、私は
デジタルにはまっているのだと思えるのです。
憂想堂
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