暗室作業のテクニックとして“覆い焼き”というのがあります。
具体的に言うと、草むらの中の人物の写真があります。 平均的に焼いたのでは人物に
この覆い焼きの応用として、印画紙の半分を完全に型紙で覆ってしまい、出ている部分
こういうトリック写真はよく作りました。
この覆い焼きというのはそういうトリックや露光調整以外にもいろいろと応用の効く技
そうです、私の魑魅魍魎シリーズの原型がここに出来ていたのです。
悪魔や魔物のシルエットはとてもおもしろい絵になりました。
じつに簡単な手法でとても楽しめました。
暗室内の技法としては覆い焼きばかりではなく、露光した印画紙を現像液につけるので
ソラリゼーション(サバッチェ)という技法も面白いものでした。
同じくリスフィルムを使ったものではレリーフというものもありました。
このリスフィルムというのはなかなか面白いアイテムでありまして、なにせマスターネ
このようにして、私の創作力は暗室の中でどんどん作られていったのです。
写真はシャッターを切れば終わりなのではなく、シャッターを切った瞬間から始まるも
そうして、私の作品の傾向はドキュメンタリーから創作作品へとその内容を変えていく
印画紙に露光している時、一部を手や型紙で覆う事により、その部分の露光がアンダー
になり、他の部分と焼き加減に差をつける、というものですね。
適正露光であるならまわりの草むらが薄くぼけてしまう、反対に草むらをはっきり出そ
うとすれば人物が露光過多になり暗くなってしまう。 こういう場合に、型紙を作り、
露光時に人物の部分に少しあて、その部分だけ露光時間を短くしてやる。 すると、周
囲の草むらもはっきりと焼き込め、人物も暗くならない。
反対に中央部を適正に焼き、周囲を白くぼかす、という場合も、中心部に穴を空けた型
紙を使い、周辺部への露光時間を短くする。
そういう手法を覆い焼きと言います。
に自分の写真を焼き付ける。 次ぎに、焼き付けた部分を型紙で覆い、最初に隠してい
た部分に女の子の写真を焼き付ける。
そると、憧れの女の子やアイドルタレントと一緒に並んで写っている写真の出来上がり
です。
同様に、憧れの君の横顔の写真を撮る事が出来れば、この応用で、自分とキスをしてい
る写真もつくれる訳ですね。
若き日の私が三船敏郎さんとビールを酌み交わしている写真もあります。
法でありまして、一時期私がはまったのは“ありえない影”のトリックでした。
晴れた日に屋外で人物を撮りますと足元に“影”が出来ます。 ちょっとハイキーに仕
上げればこの影はかなりはっきりと出ます。 その影を本来の人物の形ではない、まっ
たく違った“ありえない影”に作りかえるのです。 これもあらかじめ狙った形の型紙
を作り、それを覆い焼きして影を作っていく訳です。
枯れた木の根本に犬が寝ていて、その枯れた木の影が、枯れ枝を手のように広げ、犬を
掴もうとし、さらには犬を喰おうとしている、とか。
歩いているサラリーマンの影が手にナイフを持っている殺人者の影となったり、公園で
遊んでいる子供達を上から撮った絵の中に、子供を襲おうとして怪鳥の影が写っていた
り、女の子の影が悪魔の影になっていたり、等々。
廊下を歩いている教師の影を壁に写しだし、それを異形のものにして、それをシリーズ
化し、文化祭の時の裏展示場に展示したりもしました。
人物の顔を動物のものに置き換え、ケンタウロスやミノタウロスを作り、ギリシャ神話
の世界を描いたりもしました。 これなどはまさに今の魑魅魍魎と同じですね。
空に向かって叫び声をあげる友人の口から黒い影と共に悪魔が出現したりと、そのイメ
ージはさまざまに広がっていきました。
私自身が空を飛んでいる絵も作れましたし、イルカに乗っている絵も作れました。
これらも暗室作業がなければ生まれてこない作品達でした。
はなく、現像液をスプレーで吹きかける。 すると、細かい霧状の絵が浮き上がります。
これも濃度を加減すると面白い作品になりました。 露光前の印画紙に卵の白身を塗り、
露光し、白身を落として現像する。 すると、人物の顔はまさに恐ろしい悪魔の顔に変
身するのです。
リスフィルムに通常の焼き付けを行い、現像するのですが、現像の途中で、ほんの少し
可視光を当ててやる。 つまり、現像進行段階でカブらせてやるのです。 すると、ど
ういう訳か、ネガとポジが入り交じった、じつに奇妙なリバーサルフィルムが出来るの
です。 どこをどのようにカブらせれば、どのような効果が出るかは現像してみるまで
判らず、偶然的に効果が出来上がるものなのですが、作品としてなかなか楽しめるもの
でした。
ネガをリスフィルムに焼き付けるとポジが出来ます。 そのポジをもう一度新しいリス
フィルムにベタ焼きで焼き付けるとおなじ大きさのネガが出来ます。 そうして出来た
ネガとポジのリスフィルムを重ねて、ほんの少しずらし、それを引き伸ばし機に入れて
通常に印画紙に焼き付ける。 すると、まるでパルテノン神殿のレリーフのような、シ
ンプルで平坦なレリーフ画像が浮かび上がるのです。
ガを温存したまま、コピーネガやポジフィルムが作れるものですから、そのコピーネガ
に直接レタッチしたり、加工を加えたり出来る訳ですから、大胆なネガ加工作品が作れ
たのですね。 通常のネガではなかなかそんな事は出来ませんからね。
こうして思えば、暗室というのはたんに写真を焼き付けたり引き伸ばしたりするだけの
ところではなく、作品を作り出す創作スタジオと言えるのかもしれません。 私にとっ
てはまさにそうなのでした。
のなのです。
事になるのです。
憂想堂
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