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《 第十五話 真珠郎 》


高校2年の後半くらいからも私は写真による物語を作りたいと思うようになりました。
ドキュメンタリーも真実の物語ですが、自分自身の1からの創作ではなく、あるテー 
マを見つけ、そこからの創作となるので、制作過程でフィクションを加えにくいので 
すね。 私は自分自身の感性と創造力を主体とした作品を作ってみたいと思うように 
なってきたのです。                              

イメージとしては幻想的で、起承転結のはっきりしたもの、でした。        
といって、その頃の私にはまだ自分自身でストーリーを作り上げる能力は無く(小説 
を書き出したのは二十歳を過ぎてからです)、イメージストーリーを既成の出版物か 
ら流用させていただきました。                         

取り上げたのは横溝正史氏の「真珠郎」でした。                 

この原作には恐ろしいほどの美少年が登場し、世にも恐ろしい殺人劇を繰り返します。
そのおどろおどろしさと美しさの接点を写真で表現してみたいと思ったのです。   
原作では美少年として登場した真珠郎はじつは美しい女性の男装した姿であったので 
すが、私はその男装の女性の役を、女装した男性にやらせたのです。        
私の同級生にHという男がおりました。 当時、Hの姉はプロのモデルであり、CM 
等にもよく登場している綺麗なお姉さんでした。 そしてHもその姉に似て、女顔で 
あり、髪も長かったせいか、女装すれば男とばれる事がないくらいに綺麗な顔をして 
いたのです。                                 
私はHの姉さんに頼んでHに化粧を施してもらい、Hを男装の女性に仕上げてもらい 
ました。                                   

美しくも妖しい“真珠郎”が出来ました。                    
横溝正史氏の「真珠郎」は何度かドラマ化されていますが、そこに登場したどの“真 
珠郎”よりも、この時の私の演出した“真珠郎”の方が妖しさでは勝っていると思い 
ます。                                    

場面としては、真珠郎が川のほとりでホタルの群に囲まれ、ホタルの光りに薄明るく 
照らし出される場面。 古い家の中で、女性が血塗れになって横たわり、そのそばに 
真珠郎がうっすらと笑いながら立っている場面。 旧家の屋根の上で真珠郎が日本刀 
を持ち、浴衣を着て逃げ回る男に今にも日本刀を振り下ろそうという場面。 裸足の 
真珠郎が生首を持って立っている場面。 最後に真珠郎が水の中に沈んでいく場面。 
この四場面を撮りました。                           

そのうちの、最初の1場面。 ホタルに囲まれた真珠郎のシーンのみ、プノリントで 
ありましたので、FSPG2の6番ライブラリーにアップロードしました。        
ご覧になって下さい。( LIB 6 #1 SHINJU.JPG)                 

ただし、このプリントは作品として仕上げたものではなく、作品として大伸ばしする 
前のテストプリントの1枚ですので、仕上がりはあまり良くありません。      

この写真は深夜の長居公園で、カメラを三脚に立て、バルブでシャッターを開き、開 
いている間に、何人かのアシスタント役の友人達が豆電球を持って走り回り、ホタル 
の光りの軌跡を作り、最後にストロボを焚いてシャッターを閉じる、という手法での 
ものです。 何枚も同じ場面を撮りましたが、ホタルの軌跡が意外に難しく、なかな 
かホタルに見えないのですね。 どこか人工的に見えてしまう。 1日で終わると思 
っていたのですが、現像するとどうしても気に入らない。 そこで事前に予行演習を 
して、もう一度長居公園へ行き、再撮影しました。 アップロードしたのはこの再撮 
影のものです。                                

作品として仕上げた5枚はパネル張りし、学園祭で展示しました。         
これは評判を呼びましたね。                          
作品としても評価はされましたが、それにも増してHの妖しい美しさが評判となり、 
Hは一躍校内で注目の的となりました。                     
作品を売って欲しいという申し出がありましたので、5枚セットを5組作り、売り渡 
しました。                                  

この時のネガはまだ残っていますので、また機会があればプリントしてみたいと思い 
ます。                                    

この時から私はストーリー写真を撮っていくようになります。           
写真は現実を写すが、非現実も写せるのだ、という事が当時の私にとても創作意欲を 
持たせてくれる事になり、それが現在にも続いているのです。           
ストーリー写真と言っても、必ずしも組み写真ばかりではなく、1枚でもストーリー 
を表現出来るものもあり、さまざまな表現に私は挑戦していきました。       

そして、そのストーリーもオリジナルが作りたくなり、やがて自分自身で脚本や小説 
を書くようになるのです。                           




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憂想堂
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