asobo026.htm


《 第二十六話 写真屋さん 》


大学時代、カメラマンアシスタントのバイトはしていませんでしたが、近所の親しい 
写真館のおやじさんに頼まれて、小学校の遠足の記念写真を撮るアルバイトを何度か 
やりました。                                 
誰でも小学校の時の遠足に写真屋さんが付いてきて、記念写真を撮ってもらった経験 
があるでしょう。 あれなのです。                       

これがなかなか大変でありまして、重い機材や三脚を担いで遠足に付いていくのです 
から体力がいります。 写真館の歳とったおやじさんがわざわざバイト代を払ってで 
も私に代行を頼むというにはよく判ります。                   
遠足という言葉のとおり、歩くのですね、これが。 5キロや10キロは当然のごと 
く歩きます。 平地を歩くだけならまだしも、たいてい郊外の山間地や峠越えがあっ 
たりしますし、山に登る事もあります。 奈良県の二上山なんてけっこうしんどかっ 
たですね。                                  

で、目的地に着きまして、記念写真の準備です。                 
三脚を立て、カメラをセットする。                       
カメラは写真館で使っているトプコンホースマンプレスというカメラでした。    
これは6×12というブロニーサイズで、ジャバラ式のあおり機構のついたカメラで 
す。
1クラス40人くらいなのですが、3列から4列くらいに並んでもらい、中央に担任、
主任先生に入ってもらい、プレスカメラのスクリーンで構図のチェックをします。  
この時、頭からすっぽりと黒紗の布をかぶります。                
露出にはこつがありまして、入光角1度のスポットメーターで、列最後部の子の顔に 
露出を合わせるのです。 これはクラス全員が神社の階段などに座って最前列と最後 
列とで前後差がある場合なども最前列で合わせると、最後列がアンダーになる事があ 
るからです。 最後列で合わせておけば、少々オーバーになっても最前列の顔が明る 
くなる程度で、アンダーよりもは印象が良いという事からなのですね。       

露出を決定し、シャッタースピートと絞りを合わせ、シャッターセット(レンズシャ  
ッターで、1回ずつシャッターセットする)し、スクリーンを外してフィルムボック  
スをセットする。 そして、フィルムボックスの遮光版を引き抜き、ここからが写真 
屋さんの真骨頂なのですが、「はい、撮ります。 レンズを見てっ。 いちにぃのぉ 
さんっ、はいっ」という名調子シャッターを切ります。 このセリフの言い回しが悪 
いと写真屋さんの評判はがた落ちになります。 反対にとてもうまくて、みんなを笑 
顔にする事が出来れば名カメラマンとして商売繁盛なのです。           
え? 私はどうだったかって?                         
そりゃ、想像にお任せします。                         

中学生の場合、まだよく言う事を聞いてくれますが、小学生となるとまるで言う事を 
聞かない。 ちゃんと整列させるまでになんと時間のかかる事よ。         
この時ばかりは将来絶対に小学校の教諭にはなりたくないと思いましたね。     

このアルバイトのおかげで関西近郊の名所旧跡にはけっこう行きました。      
関西にもこんなに風光明媚なところがあったのかと驚いたりもしました。      

最近の私立高校では修学旅行に海外へ行ったりもします。             
そんな海外旅行の記念撮影なら、今でもバイトで行きたいと思いますね。      




BACK
憂想堂
E-mail: yousoudo@fspg.jp