ドナーバレーを離れるのは心残りであった。
あまりにも広大で雄大であったため、もっと山にも登りたかったし、いろんなところ
へも行ってみたかったし、風景写真も腰を据えて撮りたかった。
ともあれ我々はレインボーロッジで朝食を済ませ……そうです、そういえば、以前に
私は、かなぶんは一度も朝食を摂らなかったと書きましたが、あれは間違いでした。
一度だけ食べたのです、朝食を。
その一度がこのレインボーロッジでの朝食でありまして、朝日の入るテラスの見える
窓際の席で私達は手作りの焼きたてパンにこれまた手作りのバター、オムレツもベー
コン、サラダなどをいだたきました。
ここでの朝食は本当においしかった。
ドナーバレーを出てからサンフランシスコ市内に戻るまでの4時間の車の移動は退屈
やったなあ。 かなぶんは寝ていたし、私はのんびりまわりの風景を眺めているだけ。
シスコ市内に戻り、ここで私はかなぶんに「これからフリーな時間になるとすれば何
がしたい?」と聞きました。
するとかなぶんは「ネールアートをしてもらいたい」と言う。
じつは私は、この日が撮影最終日であり、私がどこでどんな写真を撮ろうと言うより、
かなぶん自身が本当に楽しみたい何かを客観的に撮りたいと思っていたのである。
で、かなぶん自身にやりたい事を決めてもらい、それを追いかけて撮る事にしたので
ありました。
さっそく私達は有名なネールアートの店を探し出し、アートしてもらいに行きました。
予約を入れてなかったので少し待たされましたが、ほどなく開始。
かなぶんの爪をリムーバーできれいにし、磨いていき、スカルプチャーを付け、馴染
ませてまた磨いていく。 そして最後名着色。
そこまでの課程(ガイドマップを観ながらお店を選んでいるところ、その場に行ってお
店を探しているところから入るところ、オーダーしているところから、待っている間
もふくめて)を私はずっとドキュメンタリー風に撮り続けた。
しかし、最後になって失敗があった。
私はネールアートというから、仕上がった爪に鮮やかな色のペインティングをするも
のと思っていた。 そして、そのペインティングの瞬間をメインにしようとそのタイ
ミングを見計らっていたのだが、なんとかなぶんは色を付けない、無色透明の仕上が
りをオーダーしていたのである。
つまり、私が一番メインにしていたイメージの部分が無かったのである。
これにはちょっとショックだったけれど、またそれでもかなぶん自身が喜んでくれた
事によっていい絵が撮れたのだからまずはよしとしよう。
お店の前で、仕上げてもらった両手の爪を見せてごきげん顔のかなぶんを撮ってロケ
の全行程は終了した。
この時までに使ったフィルムは103本。
コンパクトカメラで撮ったスナップ分が5本。
計108本がこのロケでの全使用フィルム数でした。
なんか除夜の鐘というか煩悩の数というか、意味深な本数ではありましたな。
その夜はひさしぶりに日本料理を食べた。
豆腐が懐かしかったですね。
寿司とうどんを食べる。
かなぶんはふだんはお酒を飲まないのであるが、ロケが終わったという開放感からか
「日本酒が飲みたい」と言い出した。
熱燗をおちょこでくいっとやりますと、かなぶんの頬がほんのり桜色になり、あらー
これもなかなかええやないのお、と思いましたね。
この夜、私はロケに来て初めて時差ボケ無しにゆっくりと眠れた。
気持ちの良い眠りだった。
翌日は終日フリーにしていたので、私もかなぶんも買い物や、いろんなところへ遊び
に出た。 サンフランシスコ市内観光もしたのだけれど、ほとんどロケで回っていた
ので、地図無しでも歩けるほどだった。
省みると、経費の問題、スタッフの問題で大変なロケでしたね。
けど、その大変さがあったおかげで仕事としても充実し、あれだけ走り回ったにして
は良い作品が撮れたのではないかと思っているのですが、さて、どうでしょうか?
その後、北村うるか、鈴木麻奈美や小沢まどかを撮る事になるのであるが、もうこれ
以降のロケは経費を獲得出来、スタッフもフルに揃えてのロケとなっていくので随分
楽にはなっていくのですが、私としては、やはりこの第1回目のとんでもなくしんど
かったロケが一番の宝物であると思っています。
かなぶんは今だに私にとって最高のモデルであったと言えますし、最高の作品をもた
らせてくれたのだと思っています。
かなぶん撮影秘話はこれで終了です。
みなさん、どう感じていただけましたでししょうか。
これを読んでから私の写真集のかなぶんを観ていただけましたなら、たんに写真集を
見ているというだけではない何かを感じていただけるのではないかと思います。
ぜひ写真集見て下さい。
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