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《 第三十五話 先生事情 》


ロケであれスタジオであれ、全てではありませんが、多くのカメラマンは威張ってい
ます。                                   
というか態度がでかい。                           
周囲のスタッフや関係者から「先生」「先生」と呼ばれて悠然としています。   
巨匠と呼ばれている某先生の撮影現場を見た事がありますが、その先生は自分のアシ
スタントやスタジオスタッフに向かって暴言としか言いようのない言葉で怒鳴りつけ
ながら仕事を進めていました。                        
あれでは良い死に方せんやろなあと心配してしまうほどの態度でした。      
当然外部スタッフの評判は悪い。                       
私が一緒に仕事をしたメイクさん、スタイリストさんなどはあからさまに「仕事だか
ら一緒にやってるけど、プライベートでは顔も見たくない」そうです。      

私もロケに出れば周囲から「先生」と呼ばれます。               
けど、私にはあの態度は取れんなあ。                     

カメラマンの世界は現在の世にあったもまだ旧態依然とした徒弟制度で成り立ってい
ます。                                   
現在、先生と呼ばれている人達もまたかつては弟子として当時の自分の先生から怒鳴
られて、怒られて、仕事をたたき込まれてきたのでしょうね。          
だから自分がその立場になった時、自分の弟子にたいして同じ態度を取るのかもしれ
ません。 それが当然というか、そうしなければならないみたいな感じでね。   
私の場合は本格的なアシスタントはした事がなく、弟子入りというものでもなかった
上に田中誠一さんはアシスタントや周囲に怒鳴る人ではなかった。        
だから私はそれが当然だと思っていたのですね。                
ところがこの業界に入り、まわりを見ていると偉そうな態度の先生がやたらと多い。
けど、私は決してああいった態度で仕事をしていこうとは思わない。       

バリロケの時、現地のインドネシア人のコーディネーターとドライバーがいましたが
最初は私にはあまり近づきませんでした。 近づく時も何かおそるおそるという感じ
でした。 後から聞いたのですが海外ロケをするクラスの日本人カメラマンは海外ロ
ケ地でも態度がでかく、バリにおいても現地のスタッフを人種差別でもしているかの
ような態度で接するのだそうです。                      
だからこの時も現地スタッフは「先生」と呼ばれている私をその連中と同類の嫌なや
つという目で見ていたのでしょう。                      

けど10日間バリにいた間中、私はいつもの調子で日本スタッフ現地スタッフと接し
ていたし、常にその場は楽しくありたいという気持ちでみんなと接していました。 
私達が食事や休憩している間、ドライバー達は駐車場で待っています。      
私はそれを見て、一緒に食べようよ、と言ってドライバーや現地スタッフの人達にも
レンスランに一緒に入ってもらい、一緒に食事するようにしました。       
撮影オフ日の時は案内してくれたドライバーとも一緒にお茶を飲んだり遊んだりしま
した。 一緒に写真を撮ったり、ポラを上げたり。               
私は現地スタッフ達ともとても仲良くなり、ひとりのスタッフの家に招かれてバリの
お茶やお酒をごちそうになったりもしました。                 

私が帰国する日、現地スタッフとドライバーは私と入れ違いでバリ入りしたカメラマ
ンの仕事で朝からロケに出ていました。                    
私達はホテルが用意したバスで空港に送ってもらう事になっていて、昼過ぎに荷物を
そのバスに積み込んでいました。                       
するとそこへ、ずっと一緒だった現地スタッフとドライバーが来てくれ、私に握手を
求めてきました。 そして、また会いたいと言ってくれました。         
そして彼らはまたすぐに車に乗ってロケに戻りました。             
彼らは私にお別れを言うためにわざわざロケ地から戻ってきてくれたのでした。  
なんか、嬉しかったですね。                         

香港ロケの時も最終日に現地の香港人スタッフが私に自分の住所と電話番号を教えて
くれ、次ぎに香港へ来た時は仕事でも観光でも、とにかく連絡してくれ、一緒に食事
しましょう、と言ってくれた。                        

先生と呼ばれて偉そうにしているカメラマンの態度がいけないとは思わない。   
立場や雰囲気もあり、現場を進行させるためには必要な事なのかもしれない。   
けど、人と人の名かで仕事をしている時にはやはりみんな仲間だという意識を常に持
って私は仕事をしていきたいですね。                     
これからも。                                


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憂想堂
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