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《 第三十七話 秀 蘭 2 》


翌朝、一旦秀蘭と別れ、私は研修旅行のメンバー達とバスに乗り、台北市内観光です。
総統府や中正紀念堂、忠烈祠の衛兵交代や龍山寺を見て昼食。           
昼食後は自由行動となり、オプショナルツアーの参加者を求めていたが私はそれらを 
パスして秀蘭との待ち合わせの場所に行った。                  

秀蘭はジーンズにセーターといういでたちで、どう見ても短大生のようにしか見えな 
い。 どうしてこの子が日本人相手の売春をしているのか不思議でならなかった。  

さっそく私は「市場が見たい」と言って連れていってもらった。          
朝の観光で言った龍山寺の近くの市場で、これまたものすごい迫力のあるところで驚 
きましたね。 時期も旧正月前で日本でいうところの大晦日であったため、正月の買 
い出しに来ている人達でごったがえし、ものすごい、という形容がぴったりくるぐら 
いの賑わいでした。 市場の店の売り子達はイスや踏み台の上に乗り大声を張り上げ 
て客の呼び込み合戦をしているし、客も商品の取り合いをしている。        
私達はまさにもみくちゃになりながら市場の中を見て歩いた。           

屋台で月餅という庶民的なお菓子を買ってふたりで立ち食いしたり、タピオカの入っ 
たミルクティーを飲んだりしてちょっとしたデート気分でなんかとても楽しかった。 

お土産を買う時でも、日本人だと見ると高い値段をふっかけられるのですが、そんな 
時でも秀蘭は値切ってくれたり、ここは良いお店、ここはぼったくり、という具合に 
いろいろ教えてくれた。                            

台北は日本より南にあるので平均気温は日本より高い、とはいったも2月の事なので 
やはりそれなりの寒さがありました。                      
秀蘭はとある屋台で、タールのような黒いべたーっとしたものを塗った小さな木の実 
のようなものを買って口に含み、ガムのように噛みだしたのです。         
聞くと、これを噛んでいるとどんな寒い時でも身体が暖かくなる、と言うのです。  
でも日本人は慣れていないから食べてはだめ、と言うのですね。          
好奇心の塊である私がそんな言う事を聞く訳がありません。            
無理矢理それをひとつもらい、口に入れました。                 
すると、しばらく経って動機が激しくなってきたのです。             
心臓の鼓動が高まってきたのですね。                      
暖かくなるというのはほかほかしてくるのではなく、鼓動を高めて血流を早くして暖 
めるという事だったのです。                          
かなりどきどきはしましたが、私は気分が悪くなるという事はなかった。      
けど、心臓の弱い方はこれを食べない方がいいみたいです。            

華西街というところにすっぽんの専門店があり、私はそこで食べたいと言って秀蘭と 
一緒に入りました。                              
日本のすっぽん料理はそれなりに原型がわからないようにさばいて調理されますが、 
台北ではほとんど原型のまま、ぶつ切りで鍋に入れられて炊きあげられます。    
首などは切り落とされたそのままです。                     
鍋が煮立つ前に食前酒が出され、それと共に赤い錠剤が出てきました。       
店のボーイが「これを飲むと今夜びんびんよ」とへたくそな日本語で言いまして、私 
もそうかそうかとそれを飲みました。                      
鍋を食べ始め、しばらくするとそのポーイが赤い錠剤の入った瓶を持ってきて私の前 
においたのです。                               
私は、さっきのやつやな〜となにげにその瓶に手を伸ばしますと、いきなり秀蘭がテ 
ーブルの下からつま先で私の脚をつつくのです。                 
ん? と思い、秀蘭の顔を見ますと、首を左右に振って「だめ」と合図しています。 
私も危険を感じ、その瓶を手に取るのをやめました。               
食後、店を出たところで秀蘭は「こちらでは出されたものを手に取った瞬間に買った 
とみなされ、とても高い金額をレシートに書き込まれる」と言うのですね。     
つまり私があの時、瓶を手にとっていれば高い薬代を払わされるところだったのです。
私はとても良い通訳兼ガイドを雇う事が出来ていたのです。            

この時、夕食時であり、ツアーの人達は私が帰ってこないのでとても心配していたそ 
うなのだが、私にとっては豪華な食事よりもこちらの方がずっと楽しかった。    

夜になって私達は夜市に行った。                        
台北名物という事で私はこの夜市に一番行きたかったのです。           
華西街から龍山寺にかけての一帯にずらりと屋台が並び、裸電球の明かりでその一帯 
が煌々と明るくなっています。                         
数百という数の屋台が並んでいるのは壮観でした。                
まず目についてのが大鍋で煮込まれた煮込みと言うかごった煮と言うか、中身が何な 
のか見ただけでは全く判らないものでした。                   
さっそくそれを食べる。                            
一杯50円程度だったのですが、これがとてもおいしかった。           
肉や魚が入っていて寄せ鍋を煮詰めたみたいな感じでなかなかいけるのですね。   
それと小さな牡蠣の入ったチヂミのようなもの、これも美味しかった。       
私があまりにいろいろ食べるので秀蘭は驚いて笑っていたが、やはり海外に来て日本 
では見る事の出来ないものには興味ありますからね、お腹の許す限り食べまくったと 
いう感じでした。                               
屋台には食べ物ばかりではなく、CDや雑誌やグラビア誌の海賊版の店もあり、それ 
らも面白かったし、ゲームをさせる屋台や射的の店もあった。           
鹿一匹を吊し、肉をそぎ落としながら目の前で焼いてくれる屋台もありましたが、さ 
すがにそれを食べられなかった。                        
それと臭豆腐とかかれていた豆腐料理、すごい腐ったような、たぶん発酵させている 
のだと思うが、これも食べれなかった。                     
秀蘭はそんな私を見て、自分が今まで見た日本人とは全然違うと言って笑っていた。 
こんな庶民的な事に興味を持つ日本人は珍しいのかもしれない。          
あるいは悲しい事だけれど、秀蘭の目から見た日本人は金満で金にあかせた遊びをし 
て女を買う、といったものだったのかもしれない。                

夜市でさんざん食べ、飲んで遊んで、私達がホテルに帰ったのは深夜2時過ぎていた。

以下次号。                                  




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