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《 第三十九話 秘剣つばめ返し 》


今、宮本武蔵がブームである(そうな)。
これは漫画“バガボンド”の影響が大きいと思われるのですが、その原作である吉川
英治の小説“宮本武蔵”の中に登場する佐々木小次郎が得意とする“秘剣つばめ返し”
なる技があります。
空中を飛んでいるつばめを剣で斬り落としたところから名付けられた剣技という事で
あるが、実際のところ、これは大変に難しい技であると想像出来ます。
なにせ、飛んでいるつばめですぞ、つばめ。
つばめはとんでもないスピードで飛びます。
飛んでいる時の翼の動きなど肉眼では捉えられないほどのスピードです。
それを剣で斬り落とすというのですから、野球選手が150キロ級のストレートを打ち
返すよりも難しいのではないかと思われます。
まず、飛んでくるつばめが自身の剣の間合いに入ってから振り抜いても、おそらくつ
ばめの飛行速度が速いため、それでは剣がその位置に達した時にはすでにつばめは
飛び去った後であろうと思われます。
見事な空振りです。
では、佐々木小次郎はどうして斬ったか?
小次郎の腕の振りはつばめをしのぐほどに早かったのか?
人間の常識を越えるスピードを持っていたのか?
否である。
では、何故斬れたか?
それは動態予測によるものであると思います。
つまり、近づいてくるつばめの飛行ルートをあらかじめ予測し、そのラインをめがけ
て先に剣を振り抜く、そうする事により、振り抜かれた剣に向かってつばめが突進し
てきて、自ら斬られてしまう、という訳です。
これが“秘剣つばめ返し”の極意ではなかろうかと思う訳であります。

では、剣をカメラに置き換えて考えてみますれば。
空全体が写る広角レンズ等は用いずに、画面いっぱいにつばめの身体が入る程度の
画角のレンズでつばめを瞬間的に撮る事が出来るであろうか?
おそらく、レンズを向けて追いかけていただけでは無理でしょうね。
つばめの飛ぶスピードは人間の視覚反射を上回っていると思います。
とすれば、やはりここでも動態予測に頼らざるをえません。
しかし、これも難しいでしょうね。
3次元的に飛ぶつばめを捉えて、さらに一瞬を捕まえてシャッターを切るのですから。

もうすぐ春になります。
つばめがやってくる季節ですね。
とはいっても、私の住んでいる大阪市内でつばめを見かける事はほとんど出来なくな
ってしまいました。
もしかすれば朱鷺智庵さんが棲息しているあたりであるなら、つばめを見る事が出来
るかもしれません。
いかがでしょう、佐々木小次郎になったつもりで“つばめ返し”に挑戦されてみては。

あるいは、自分は飛んでいるつばめを撮った事がある、という方がいらっしゃいまし
たら、ぜひ拝見させて下さいませ。
私も機会があれば挑戦してみたいと思っています。


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憂想堂
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