さて、これをカメラに置き換えてみますと。
例えば、モデルさんを前にして“笑顔が撮りたい”と思えば、まずそれをモデルさん
さらに遡って、自分の意図あるいはイメージを持つというのはどういう事か。
さて、これらを考えて、次回の撮影会やSSSの撮影に臨んでみられてはいかがでし
宮本武蔵が晩年に著した“五輪書”の中にこんな一節があります。
「剣を知るには己を知り、人を知り、山を知り、水を知り、風を知らなければならない」
と。
つまり、ただ剣を振り回しているだけではだめである。
何故己は斬らなければならないか、斬るべき相手の気持ちや環境、そして、自然の動
き等を知らなければ斬るという価値観を自身が持つ事が出来ない、という意味ではな
いかと私は思っているのですが。
哲学ですね。
自分の撮りたい被写体、それが風景であっても静物であっても人物であっても、それ
らを前にしてただ漠然とシャッターを切っていてはいかんという事です。
カメラは簡単であるが難しい、とよく言われます。
完成された機械なのですから、何も考えずにただシャッターを切っただけでも、とに
かく何かは写ります。
ましてや最近のカメラはAF、AE、プログラムオート等の機能が充実していますので、何
も考えなくても、とにかくちゃんとした“絵”は撮れます。
が、しかし、自分の感性でもっと心に思い描いたものを撮ろうとすれば、これはとて
つもなく難しい。
に伝えなければ、モデルさんには自分がどんな表情をすればよいのか判らないから、
ただその場に突っ立っているだけで笑顔はくれない。
という事は伝えなければ自分が狙った絵は撮れない、という事ですね。
その伝達方法は言葉であり、ジェスチャーであり、あるいは文章であるかもしれない
のだけれど、とにかく伝えなければ何も始まらない。
SPG撮影会で見ていますと、この“何を撮りたいかを伝える”という行動に出てい
る方はとても少ない。
ほとんどの人達が、何も言わず、同じグループの中の誰かがつけたポーズを横から黙
々と撮っている。
これでは写真は撮れても自分の作品が撮れているとはとても言い難い。
では、自分の気持ちをモデルさんに伝えるにはどうすれば良いか?
それはとにかくモデルさんとお話をして、仲良しになる事です。
撮影の最中でもよいし、前夜祭の飲み会の場でもよい。
とにもかくにもモデルさんと気持ちが通じ合えば、自分の気持ちや撮りたい意図を伝
えるのがぐっと楽になり、それだけ自分も撮影に没頭出来る。
それもまた五輪書にある「己を知り」であるのですね。
自分はどんな感性を持ってどんなものを撮りたいのかを原点から考えて自覚するとい
う事です。
これなくして自身の作品というものは出来ないのではないか、と思います。
それを自覚した上で構築したイメージを現場でモデルさんに伝え、共有してはじめて
その作品が具現化するのです。
例えば、モデルさんが涙を流している絵が欲しいと思えば、目薬を使うという手もあ
ります。
しかし、人間が涙を流すにはなんらかの要因があり、そこからイメージを作り、現場
でその雰囲?Cをつくり、それをモデルさんと共有する事が出来れば、目薬などなくて
もモデルさんの目から本物の涙がこぼれる、という事もあるのです。
そこまで持っていく事が出来れば、それこそ自身の作品の撮影が成功したと言えるの
ではないでしょうか。
そして、それが「己を知り、人を知る」という事なのではないかと思う訳です。
ょう。