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《 第五十三話 日本一高い山 》


朱鷺智庵さんがライフワークとして富士山を撮り続けられています。
富士山は日本一の山として国内のみならず海外にも有名な山ですね。
では、富士山はなぜ日本一なのでしょう?
それは標高、つまり山の高さが日本で一番高いからなのですね。
もっともそれだけではなく、ライフワークとして撮り続けたいと人に思わせるほどの
美しさと偉容をたたえているからでもあります。
まさに日本人の心のふるさととも言える山であります。

ところが、つい最近の事なのですが、八十歳のおじいちゃんからこんな話を聞きまし
た。
「わしが若い頃、日本で一番高い山に登った。 それは富士山ではない」
と。
富士山ではない日本で一番高い山とは何の事なのでしょう。
私はトンチかと思い、反対に日本で一番低い山である大阪の天保山の事かと聞き返し
ましたが、違うと、正真正銘、日本で一番高い山であったと言う。
名前が高いとか偉いとかでもなく、標高が日本で一番高い山であったと言う。

このおじいちゃんの言う事が本当であるなら。
かつて、富士山より高い山が日本にあったのか?
そして、それは天変地異で削れ、あるいは崩れて低くなり、富士山が追い抜いてしま
ったのか?
あるいは標高の計測が間違っていて、本当は富士山以外の山が日本で一番高いのか?
あるいは、そのおじいちゃんが惚けてしまっているのか?
その真実はいかなるものでしょう?

さあ、これがお判りの方はいらっしゃいますでしょうか。
(※トンチ問題ではありません)

で、正解は以下です。

これは太平洋戦争開戦のきっかけとなった真珠湾奇襲攻撃の突撃命令文「ニイタカヤ
マノボレ1208」の電文に使用された新高山の事でありまして、台湾の台中にある
標高3973メートルの山の事です。
戦前戦中、台湾は日本が占領しておりまして当時の日本独自の見解では日本領であっ
たのです。
ですから戦前に台中に居て新高山に登った人は富士山よりも高い、日本一高い山に登
ったという認識なのでしょう。
しかし、戦後、この新高山の事はほとんど日本国内で話題にならなかったのか、現在
のほとんどの日本人はこの事実を知らないみたいです。
これは戦時中の占領地域での事であったという事もあるでしょうし、もしかしたら、
新高山の立ち姿は富士山のように美しくないのかもしれません。
まあ、そのへんは判らないのですけど、かつて新高山に登り、日本一高い山に登った
て自負している方達にとっては当時の第二位の富士山に登って日本一の山に登ったと
言っている人達を見るのは癪でしょうね。


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憂想堂
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